昨日行われたセブンズ日本代表の記者会見で、リオ五輪4位という快挙を成し遂げた男子のヘッドコーチ(HC)瀬川智広さん、そしてサクラセブンズの急速な強化に貢献した女子のHC浅見敬子さん、両HCの退任が正式発表されました。2012年の着任以来セブンズ代表の成長に心血を注いできた、いわば日本のセブンズの“功労者”である両者の退任。ただ、会見を通じて新しい時代を築くための前向きな交代であるとも感じることができました。
瀬川前HCは退任の弁として、
「リオ五輪で目標としていたメダルが取れず、本音を言えば東京五輪でもメダルを目指してHCを続けたかったです。しかし退任を命じられたことは重く受け止めたいと思います」
と本心を吐露。そこには志半ばの無念さがにじんでいました。先日のアルゼンチン戦で、セブンズ代表の“教え子”であったレメキ選手のトライを笑顔で祝福していましたが、そこには要職との惜別の思いもあったのでしょう。今後のことは「何も決まっていない」ということですが、7人制と15人制の両方でここまでいい結果を残した指導者は世界的に見てもほとんど例がありません。かつて東芝を指揮されたように、15人制も含め何かの形で現場復帰してほしいものです。
すでに女子ユースアカデミーでコーチのひとりとして新たなスタートを切っている浅見前HCは、
「私が女子ラグビーに対して何ができるかということずっと考えてやってきました。東京五輪への課題を次につなげたいです」
とコメント。選手として、指導者として女子ラグビーを牽引してきた浅見さんの力は、まだまだサクラセブンズ&フィフティーンに必要です。
本城和彦セブンズディレクターは同じ会見の席で、
「次のさらなる(高い)ステージに行くときに、枠をはみ出した新しい視点や知見を取り入れる必要がある。そのタイミングが今だと考えたわけです」
と指導者の交代理由を説明しました。功労者の退任は一見残念で、もったいない気もするのですが、瀬川さんが「(リオ五輪で)初戦でニュージーランド代表に勝てたが、メダルをとれるだけの実力を本当に身につけていたかといえば、そうではなかったと思います。フィジカル、そして決勝までの体力はまだまだ欠けていました」と振り返ったように、獲得目前だったメダルは実はまだまだ遠いというのが関係者の実感だったわけです。男子はワールドシリーズもあります。さらなる高みを目指すにはリオが終わった直後、ワールドシリーズが始まる直前の今の時期しかない。そのような結論に至ったということです。
“枠をはみ出した新しい視点や知見”を期待されて新たに就任したのは、
■男子セブンズ日本代表新HC ダミアン・カラウナ
■女子セブンズ日本代表新HC代行 稲田 仁
の両氏です。会見には同席しませんでしたが、代わりに出席した岩渕健輔日本代表GMは
「カラウナはジェイミー(・ジョセフ日本代表HC)とすでにコミュニケーションをとっています」
と明かし、選手の取り合いになるような事態を避けながらうまく連携していくと説明。契約は2018年の5月までということです。
稲田仁HC代行については、本城ディレクターによると、
「まだ若いが将来性のある指導者。アジアシリーズでもいい結果を残してくれました」
と評価されています。正式なHCは来年1月か2月には決めたい、ということでした。
ダミアン・カラウナ新HCは1975年3月6日生まれ、ニュージーランド出身の41歳。1996年から2003年まで7人制ニュージーランド代表として長きにわたり活躍したほか、現スーパーラグビーのハリケーンズ(1999〜2000年)、チーフス(2000〜2001年)といった強豪チームにも所属。2003年から2005年まではサニックス(現宗像サニックスブルース)でもプレーしました。同じくサニックス所属だったジョセフHCとはプレー期間こそ重なっていませんが(1996〜2002年)、ニュージーランド出身でサニックスOBという意味では大いに接点があり、岩渕GMも「すごく仲がいい」と語っています。
カラウナHCのコーチングキャリアは、主にオスプレイズ(ウェールズ)で2006年から2012年まで指導し、2012年から今年のリオ五輪まで男子セブンズニュージーランド代表のスキルコーチ・ディフェンスコーチ・分析を担当。くしくも男子日本代表が初戦で破った相手のコーチだったわけですが、ニュージーランドがセブンズ王国となっていった過程も、そしてリオ五輪で失速した過程も知る貴重な人材と言えるでしょう。
男子の合宿は11月17日スタート予定。15人制同様、新生セブンズ日本代表にも大いに期待したいところです。
<取材・文・写真/齋藤龍太郎(楕円銀河)>