ウェールズ戦を見ていて、日本代表のアタックの際に「ちょっと蹴りすぎなのでは…?」と感じた方もいたのではないでしょうか。私も実はピッチサイドでファインダーをのぞきながら「蹴るよりもっとボールキープに徹した方が…」などと素人考えを巡らせていたのですが、これもたしかな戦術であったことが試合後にわかりました。
頻繁にハイパントを上げ、相手の繰り出すハイボールに対しても常時対応していたウェールズ戦善戦の立役者、FB松島幸太朗選手のコメントを今回は取り上げます。
「(ハイパントから)相手にボールを与えて、競れるボールは競りにいって、(仮に相手ボールになっても)ディフェンスでうまいこと(対応)できていたと思います。ディフェンスのシステムはできていましたし、相手のアタックもそんなに怖くなかった。相手FWがフィジカルで(勝負してきて)ゲインされていく場面がありましたが、そこで相手がワイドに振っていっても仕留めきれていたので、チームとして成長できたかなと思います」
キックから相手にボールを与えてもディフェンスで対応する。それは決してギャンブルなどではなく、堅牢なディフェンスに裏打ちされた戦術だったわけです。ハイパントも全てをマイボールにしなければならないという考えではなく(もちろん競れるボールは競りにいくわけですが)、相手にボールが渡ってもディフェンスからプレッシャーをかけて「攻める」。山田選手のコメントにもあったように、ディフェンスから圧力をかけていくことがトライにつながりました。それが現在のジャパンの狙いの一つということになります。
また、ウェールズからのキックへの対応について松島選手は、
「相手はキックも多いので、バックスリーは特に今まで以上にワークレートを増やそうと話していました。それをバックスリーは遂行できたと思います」
と、事前にウェールズのキックが多いことを把握した上で、バックスリーとして相手からのキックやハイボールに仕事量を上げて対応したことを明かしました。ここからも綿密な準備と対策、そしてバックスリー(この試合はWTB福岡堅樹・WTB山田章仁・FB松島幸太朗の3選手)の能力と対応力の高さを感じます。
「練習でやっていることがきちんとこうして試合に出ている。みんなのマインドセット(心構え)がしっかりしているということだと思います」
とチームとしての精神的な成長を実感した松島選手。しかし同時に課題を挙げることも忘れませんでした。
「個人的にはアタッキングフェーズの中でもっと早く判断すること。FWを使ったり外まで振ったり、というところですね。チームとしても、やはりアタックで誰がどこに入るなどといった細かいコミュニケーションが増えればもっとスムーズにいきますし、外まで振ることもできる。何個かそういうトライもあったので、それがどんどん増えればいいと思います」
判断とコミュニケーションを磨けばもっともっと良くなる──。これまでとはタイプの違う難しい相手・フィジー代表との対戦(11月26日/仏・ヴァンヌ)はどうなるでしょうか。フランスで練習生としてのキャリアがある松島選手はこう話しました。
「フィジーはアンストラクチャー(からのアタック)が強いので、僕らがキックした時にちゃんとディフェンスできるかが問題になってきます。相手のアタックをどこまで防げるのか。今は(フィジーではなく)完全に自分たちにフォーカスを当てていますけど、フィジーのアタックは脅威なので、相手の得意としているパターンなどを見てディフェンスをどうするかですね。(そんなフィジーに)勝ってランキングも上がればそれでが一番いいし、(欧州遠征を)勝って終わりたい。自分のやるべき仕事についてはできていると思いますが、もう少しライン参加できた場面もあったので、そこを見直してチャンスを作りたいです。まずは自分のプレーをすること。そうすれば結果はついてくると思います。僕の役割は変わりません。裏にスペースがあればどんどん蹴っていって、逆に前が空いていればどんどんカウンターアタックしていきたいです」
日本代表としてさらに磨き上げられたラグビーを見せてくれることを期待しながら、現地ヴァンヌで週末を待ちたいと思います。
<取材・文・写真/齋藤龍太郎(楕円銀河)>