52年前に東京オリンピックの開会式が行われた10月10日、体育の日。この日が、2019年のラグビーワールドカップ日本大会でさらなる躍進を目指す新しいラグビー日本代表の船出となりました。選手の集合日は昨日9日でしたが、初のピッチでの練習という意味ではこの日が実質的な初日と言っていいでしょう。
ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(以下HC)率いる新生日本代表の初日ということで、注目度は過去最高レベル。これまではファンよりも報道陣の数の方が多いのが通例でしたが、祝日ということもあって過去に例を見ないほど多くのファンが東京・辰巳のグラウンドに詰めかけました。親子連れが多かったのがほほえましたかったです。
↑もちろん報道陣の数も多いのですが…。
↑ネットの向こう側にはこんなに多くのファンが! フレームに収まりきらないほどでした。
練習は予定されていた15時から…ではなく、30分以上も早くスタートしました。エディー・ジャパンも定刻より早く練習が始まることがほとんどでしたが、今回はそれ以上に早いスタートに。11月までの練習時間は限られていますから、早め早めの始動は個人的には大歓迎です。なお、齋藤の現地着は14時15分。20分には選手がピッチに入ってきました。遅刻しなくてよかった…。
指導にあたったのはジェイミーHC(下写真右から2番目)に加え、かつてオールブラックスと三洋電機で活躍した名SO、トニー・ブラウン アタックコーチ(一番左)。そしてサンウルブズのコーチも務めた田邉淳氏(一番右)。そしてサンウルブズの新HCに就任したフィロ・ティアティア氏(左から2番目)も参加しました。
ピッチの外側には薫田真広ディレクター・オブ・ラグビー(下写真右)、男子7人制日本代表HCの瀬川智広氏(左)も。お二人とも東芝の黄金時代を築いた元監督です。
練習はFW、BK問わずほぼアタックを中心としたメニュー。それも狭い範囲でのボールゲームや、至近距離からのキックをキャッチしてすぐにパスする練習など、あえてアンストラクチャーな状況を作りその中で動きを確認するメニューが印象的でした。
約2時間の熱がこもった練習が終わり、ジェイミー・ジョセフHCが満足気な表情で報道陣の取材に応じました。まずはテレビ各局からの質問です。
──始動の感想は。
今回のスコッドで、新しく(日本代表に)選出された選手が15人います。みんな元気いっぱいで、とてもいい初回のトレーニングになりました。昨日、一昨日、トップリーグの試合に出た選手が多いので、今日は50~60%の強度で練習するつもりでした。
──ターゲットは。
今回の合宿の目標は3つあります。まず選手とコーチ陣のアライメント(連係・団結)です。2つ目は15名の新しい選手たちとの連係。3つ目はゲームプランの徹底です。
──アルゼンチン戦に向けて重点的に鍛えたいポイントは。
ファンのみなさんも大変期待していただいていると思いますが、今回のミニキャンプ2回とアルゼンチン戦直前しか(練習の機会が)ありません。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカと(ザ・ラグビー・チャンピオンシップで)戦ったティア1のチーム(アルゼンチン)といかに戦うか、そこを重点的にやっていきたいと思います。
──キャプテンは未定ですが。
誰もが(キャプテンの)候補です。ケガ等でこのキャンプに参加できなかった選手もいますので、2回目のキャンプ(10月23~25日)までには決めたいと思います。
──あらためて目標と意気込みを。
今日のことについて言うと、アンストラクチャーからのラグビーを重点的にやりました。新しい選手も多く、11月はすべて日本よりランキングが上のチームと対戦します。もっとスピードを上げてアンストラクチャーのところを重点的にやっていきます。その準備を万端にするための練習をしました。
──日本の選手の印象は。
とてもハードワーキング(よく仕事をする)です。みんな情熱を持っていて、学ぶ意欲が高い選手が多いという印象を持っています。
──3年後のワールドカップに向けて。
まだ3年あり、まだ長い道のりになります。今日はその最初のキャンプの1日目です。これからハードワークをして一番大事な連係・団結に重点を置いていきます。
続いてペン記者の質問にも応じました。
──最初のトレーニングの印象は。
アルゼンチン戦まで準備が5日間程度しかありません。コーチ陣も全部入れ替わりましたし、時間は少ししかありません。今回のキャンプはメディカルチェックなど様々な検査をして、まずはコーチ陣と選手の関係性を作ることに目標を置いています。
──アタック中心のメニューでしたが。
もちろんです。ポジティブにぶつかっていきます。強豪国が相手ですし時間も限られていますので、コーチ陣としてはやはり「アタックしていこう」という心構えでやっています。実際の試合では50%はディフェンスしなければいけないとも思っていますが、すべてを5日間でカバーすることはできませんので。ただ、試合が近づけばセットピースを重点的にやっていくことになるでしょう。今日はフェイズラグビーに徹しました。
──時間が少ない中でどう15人を選びますか。
その質問に答えるのはまだ早いですが、アルゼンチンは強いチームです。パワーでねじ伏せようとしてくるでしょう。日本にとって一番の課題であるセットピースが最も重要になってきます。BKへ早くボールが回せれば、あとはいいプレーヤーが揃っているので上手くいくと思います。
──1日目の高揚感はありますか。
はい。(そのせいか)今日は50%ぐらいの強度でやるつもりでしたが、80%ぐらいになってしまいました。(日本語で)それは僕のせいです(笑)。
──アタックで一番大事にしたいことは。
しっかりと準備すること。そして選手それぞれが役割を明確に理解することです。ですから今日は、それぞれのポジションを理解して役割を明確にする練習をしました。もちろんスキルはもっと向上させなければいけません。
──日本の選手がこれから伸ばさなければいけない点は。
選手はそれぞれ各所属チームで違うコーチについています。当然、代表では違う指導が発生することもあるでしょう。そこの切り替えを上手くやってほしいです。15人の新しい選手は我々が求めるスキルを持っています。トップリーグを見てきた感触では彼らも十分やっていけると思います。
──セレクションの大きな基準は。
15人の新しい選手が入ったことは、もちろんケガ(等で選外になったケース)もありましたが、経験者が抜けたことでもあります。コーチとしてはそこに新しい選手層(が形成されること)を期待しているので、松橋(周平。NO8)や田村(熙。SO)を入れました。
──あらためて今日の感想を。
ちょっと長くなっちゃったかな。(日本語で)コーチが元気すぎました(笑)。
練習と囲み取材を終えて受けた印象は、とにかく「ポジティブであること」。ディフェンスの必要性も唱えつつアタッキングラグビー、それもアンストラクチャーな状況下でのアタックに重点を置くことで、これまでとはひと味もふた味も違うアタックが見られるようになるかもしれません。
そして、日本語も堪能なジェイミー・ジョセフHCのお茶目な受け答えの中での、ナショナルチーム独特の高揚感が練習強度を高めることにつながった、という話が特に印象的でした。本来であればプラン通り50%の強度で遂行するべきなのかもしれませんが、選手の動きもコンディションも全体的によく、もっと強度を上げてできるという感触が選手、コーチともにあった。それが「強度80%の練習」につながったのでしょう。私が見た限り今日の練習によるケガはなく、むしろ全員が2時間におよぶハードなメニューを難なくこなしていた感すらあります。トップリーグの真っただ中で体もスキルも仕上がっていることに加え、全員が心身ともに充実してこの合宿を迎えたことで、強度の高い練習が可能になったのだと考えます。
強豪との4連戦が苦しい戦いになることは間違いありませんが、今日はそんな不安を払拭してくれそうな、大いに期待が持てる練習でした。明日の練習も含め、今週は日本代表の取材成果を引き続お伝えしていきます!
<取材・文・写真/齋藤龍太郎(楕円銀河)>