今年1月に海底火山の大噴火、それに伴う津波や火山灰などにより被災したトンガ王国。日本のラグビー界とは40年近い交流が続いており、今なお多くのトンガ人選手、またはトンガにルーツを持つ選手が日本でプレーしているだけでなく、日本代表にも多くのトンガ系選手が選ばれてきた。
そのような深いつながりのあるトンガの被災者の救援や復興支援を目的に、日本でプレーするトンガ系選手で構成されたチーム「トンガサムライフィフティーン(TONGA SAMURAI XV)」と、NDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)で組まれる「エマージング ブロッサムズ(EMERGING BLOSSOMS)」によるチャリティーマッチが6月11日(土)に秩父宮ラグビー場で開催された。
トンガのためのチャリティーマッチである一方、NDSを指揮する堀川隆延HC(ヘッドコーチ)は、
「チャリティーマッチではありますが、自分たちが何のために戦うのか、自分たちの存在意義とは何なのか、という話をしっかり選手たちにしてきました。あくまで私たちが目指すのは日本代表であり、日本代表になった先には(2023年の)ラグビーワールドカップで勝つという道標があります。その道標、プロセスの中でのNDSですので、我々は常に挑戦し続けるということを選手たちと話してきました」
と語り、選手に目的意識を植え付けたうえで今回の真剣勝負に臨んだ。
廣瀬俊朗さんのプロジェクト、スクラムユニゾンとノフォムリ・タウモエフォラウさんらによる両国の国歌斉唱後、トンガサムライフィフティーンはオリジナルの「シピ・タウ」(トンガのウォークライ)を披露し、8055人のファンを沸かせた。
前半、先制したのはエマージング ブロッサムズだった。8分、敵陣でLOヴィンピー・ファンデルヴァルトのバックフリップパスを受けたキャプテンのSO田村優が相手ディフェンスの穴を突いてトライ。コンバージョンゴールも自ら決めて7-0と先手を取る。
23分にはトンガサムライフィフティーンがLOエセイ・ハアンガナのトライ、WTBラトゥクルーガーのゴールで7-7の同点に追いついたものの、エマージング ブロッサムズは26分にSH茂野海人、36分にHO堀越康介がトライを決めて、17-7と10点リードして試合を折り返す。
後半もエマージング ブロッサムズは先制に成功する。3分、敵陣ゴール前のラックからSH茂野、SO田村、FB尾崎晟也とパスをつなぎ、右大外でラストパスを受けたWTB竹山晃暉がトライ。SO田村のゴールも成功し、エマージング ブロッサムズが24-7とリードを広げる。
その後は両チームともに多くのリザーブの選手に出場し攻防が続いたものの、試合はしばらくスコアが動かず膠着状態が続く。そんな中、前半24分以降無得点が続いていたトンガサムライフィフティーンは後半25分、シオネ・ハラシリがトライ。24-12と反撃ののろしを上げる。
しかし後半34分、負けられないエマージング ブロッサムズは、試合直前にNo.8での先発が決まったテビタ・タタフが敵陣22mライン付近のマイボールラインアウトからパスを受けると、持ち前の推進力で一気にインゴールまで到達し、トライ。31-12とリードを広げ、これが最終スコアとなった。
試合後は両チームによる円陣と、あらためてシピ・タウが披露され、両国の絆を感じさせる締めくくりとなった。
試合後の記者会見で、エマージング ブロッサムズ堀川隆延HCは
「自分たちがやろうとしたラグビー、たとえば相手にボールを渡してアタックをさせてからのディフェンス、ディフェンスからのターンオーバーなど、そのような基本的なプロセスが80分通してしっかりできていたので、1戦目としては非常に満足のいく試合でした」
と試合を振り返り、キャプテンを務めたSO田村優も
「ミスもしましたが引きずることなく(大分合宿で)やってきたプランを遂行できたので、(大分に)帰ってチームを加速させること(が大事)だと思っています。何よりチームをよくしたいという思いでやっていますので、それがこういう形で出てうれしいですし、過程の方が結果よりもうれしいですね。今日は楽しかったです」
とここまでの過程に満足の様子だった。
最後にトライを決めたトンガ出身のエマージング ブロッサムズNo.8テビタ・タタフについては、
「当初はセル ホゼが先発でしたが、家庭の事情で試合に出られないことが直前に決まりました。その時点でテビタに先発の話をしました。もともとジェイミー(・ジョセフ日本代表HC)と話をしていて、ゲームタイムが必要な選手の一人ということでした。本人も『80分行きたい』と(言ってくれて)、本当にいいパフォーマンスを見せてくれたと思います」(堀川HC)
「能力があることは間違いなく、必要とされれば力を出す選手だとわかっていました。もっとすごくなると思いますが、彼は(試合で)使われて成長していくと思います。(トンガのことは)そこまで多くは語りませんでしたが、彼も(この試合に)特別な思いがあったでしょうし、僕たちも少しでもサポートできるように、という思いがありました」(田村キャプテン)
とHC、キャプテンともに高く評価し、テビタ・タタフ自身も、
「メンバーに入れてうれしかったです。こういう試合が開催されて、相手がトンガ(サムライフィフティーン)ということで、うれしかったです。自分の強みを生かして(トライを)獲ることができました。(相手のディフェンスを乗り越えて)トライまで獲り切るつもりでした」
と自信のパフォーマンスを評価した。日本代表への復帰に向けてアピールしていきたい点を問われると、
「80分の中で自分がどれくらい走れるか、ということです。それを意識していました」
と答え、今後の活躍を誓った。
6月18日(土)にはNDSのメンバーで主に構成される予定の日本代表が、ウルグアイ代表と秩父宮ラグビー場で対戦する。
<取材・文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)>