異次元。
思わずそう表現したくなるゲームでした。
国内チーム同士の対戦でここまでレベルが高く、かつこれほど実力が伯仲した試合は過去ほとんど例がないのではないでしょうか。これもインターナショナルレベルを目指している、また実際そういうレベルに達しているプレーヤーを数多く擁している両チームだったからこそ実現できたことでしょう。
1月29日(日)、日本選手権決勝。トップリーグ王者のサントリーサンゴリアスと3位のパナソニック ワイルドナイツによる「日本一決定戦」は、15-10でサントリーが制しトップリーグ優勝に続き2冠を獲得しました。昨季王者のパナソニックは無冠でシーズンを終えましたが、国内トップのアタッキングラグビーを披露してきたサントリーをノートライに抑えたディフェンス、そして試合唯一のトライを挙げた決定力は見事でした。
しかし、やはり今季は終始サントリーのシーズンだったと言えるでしょう。昨年8月26日の開幕戦、近鉄に14-13と1点差で競り勝って以来全勝(トップリーグ15勝0敗、日本選手権2勝)。土のつかないパーフェクトなシーズンを送りました。その原動力はどこにあったのでしょうか。サントリーの沢木敬介監督は試合後の記者会見でこう語りました。
「素晴らしいパナソニックさんのラグビーに対して自分たちの予定していたアタックはできませんでしたが、選手たちはすごく我慢してやってくれました。これもまたラグビーだと思います。今季はいろいろな状況に対応するというトレーニングをずっとやってきましたので、うまくいかない時にどうするか、次に何をするか、今日はそれを選手自身がグラウンドでよくできたと思います。素晴らしい試合でした」
状況に対応する。トップリーグ優勝時は勝因として「ラグビーナレッジ」を挙げていましたが、高いインテリジェンスと状況対応力(に加えてもちろんフィジカル面、スキル面など)を鍛え抜いたことでサントリーは最高の結果を得ることができたわけです。
そして、予定していたゲームプランを遂行できない状況でも「我慢して」戦ったことも、この試合の大きな勝因となりました。ディフェンスから切り返し連続攻撃でトライまで持ち込むアグレッシブ・アタッキング・ラグビーがサントリーの武器ですが、パナソニックの堅牢なディフェンスに対して我慢して戦いながらPGで確実に得点することを徹底しました。15点はすべてSO小野晃征選手によるものです。キャプテンのSH流大選手も、沢木監督と同様に「我慢」の勝利であることを強調しました。
「監督も言われたとおり、予定していたゲームプランではありませんでしたが、ファイナル(決勝)は勝つことが大事で、1点差でもいいから勝つこと(が第一)です。そこで3点(PG)を積み重ねて、我慢強くラグビーをしたことが勝利につながったと思います。この1年間、選手とスタッフが本当にハードワークしてきたことがこの結果につながったと思うので、優勝できて本当にうれしかったです」
さて、仮にこの試合のマン・オブ・ザ・マッチを1人選ぶとしたら誰になるでしょうか。サントリーの全得点を叩き出したSO小野選手、80分間ボールに絡み続け最後もパナソニックの猛攻をしのぎマイボールにしたFLジョージ・スミス選手、もし敗者から選んでもよいなら負けじとボールに絡んでいたパナソニックNO8デービッド・ポーコック選手、WTB福岡堅樹選手とのチャージ(実際に手に当てたのは福岡選手)からトライを決めたLOヒーナン ダニエル選手…など、挙げればきりがありません。
ここは意見が分かれるところかもしれませんが、ラグビー∞アンリミテッドとしてはパナソニックのアタックの芽をたびたび摘んで失点を最小限に抑えるなど、スーパープレーを連発したサントリーFB松島幸太朗選手がマン・オブ・ザ・マッチだろうと考えます。試合後の松島選手のコメントを紹介しましょう。
「今日はみんな集中力が高くて、最初から最後まで集中できました。トライを獲られた場面もありましたが、次の自分たちの役割を考えることに集中しました。チームにも若い選手がいっぱいいるので、ここでタイトルを獲れたことはすごく大きいですし、チームにとっていい経験になったと思います。今後も自分たちに対してチャレンジしていきたいと思います」
前半26分にはパナソニックSO山沢拓也選手のグラバーキックに反応しインゴールへ先行、トライを防ぎました。後半10分には激しい連続タックルでマイボールラインアウトを獲得。そして特筆すべきは後半33分のプレーです。パナソニックSO山沢選手からWTB福岡選手へのキックパスを松島選手が高いハイボール処理能力でかっさらい、フェアキャッチに持ち込んだのです。パスが通っていれば同点となっていた可能性が高いプレーでした。
「堅樹(パナソニックWTB福岡選手)が10番(同SO山沢選手)にアイコンタクトで『ボール(キックパス)をくれ』と要求していたので、(キックパスを未然にキャッチする)いいプレーができたと思います」(松島選手)
相手がどのようなプレーをしてくるか察知し、先回りして未然に防ぐ。ただスキルが高いだけでなく、こうして相手を読むことができるのは経験と判断力、ラグビーナレッジのなせる業でしょう。不動の日本代表FBらしい鮮やかなプレーでした。
一方、無冠に終わったパナソニックですが、LOヒーナン選手のトライ以外にもトライに持ち込める可能性があったプレーは複数あり、サントリーとの実力差はまさに紙一重でした。試合の前々日に「素晴らしい試合になる」と予告したロビー・ディーンズ監督は試合後の会見で、
「今日の選手たちのパフォーマンスを誇りに思っています。(ただ)ゲームの流れの中で、大切なところで自分たちの方に流れが来なかった。逆にサントリーさんが流れを自分たちの方に引き寄せ、それをやるための経験と賢さを持ち合わせていました」
と語り、ゲームキャプテンを務めたFL布巻峻介選手も、
「お互いちょっとのことで勝敗が動く試合でした。そこまで(実力)差はなかったと思います。来シーズンはそこを埋めたいと思います」
とサントリーとの差がわずかだったと語りつつ、それを埋められなかった悔しさをにじませました。
国内試合では今季最多、20196人のファンを秩父宮ラグビー場に集めた試合は、シーズンの掉尾を飾るにふさわしい最高の内容でした。そんな試合を見せてくれた両チームに、そしてそれらに敗れたものの1年間研鑽したすべてのチーム、選手に感謝して、今シーズンのリポートを締めくくりたいと思います。
<取材・文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)>