2年ぶりに花園決勝の舞台に立った東福岡(福岡)と、同校初の花園2連覇を目指す東海大仰星(大阪第1)が相見えた第96回全国高校ラグビー決勝。ちょうど1年前の1月7日、第95回準決勝で激突した因縁のある両校(結果は東福岡22−24東海大仰星。最終的に東海大仰星が優勝)の再戦は、白熱しないわけがありませんでした。右脚をケガしながらも先発出場し、「前に行くことしか考えていなかった」と前半19分の先制トライの感想を口にした東福岡CTB森勇登選手は、仰星との決勝について試合後にこう語りました。
「去年の借りもありましたし、(春の選抜大会と夏の7人制大会の優勝に続く)3冠という目標もあったので、ディフェンスを意識して必死にやりました」
去年の準決勝敗退。この悔しさは森選手に限らず東福岡全員が共有していた思いでしょう。森選手がケガを押してまで出場したのもここに理由がありました。
「(朝起きたら右脚の)腫れは引いていましたが、飛び跳ねたら痛くて、昨日の夜と今日の朝に(痛み止めの)注射をしました。あとはテーピングと飲み薬と座薬で、なんとか。フルに出られるかどうかはわからなかったのですが、自分の意志で出たいと。最後まで行きたかったのでがんばりました。3年間、自分が試合に出て優勝するためにやってきたので、ここで負けるわけにはいかない。あとは冷やしたりすることをしっかりやって、この試合に出られるよう努めました」(東福岡CTB森勇登選手)
ギリギリ試合に出られる程度に回復し先発しただけでなく、先制トライまで決めた森選手。精度の高いプレースキッカーでもありますが、後半から「もう踏ん張れないと思ったので、自分から」(同)SO丸山凛太朗選手にその役目を譲りました。いかにギリギリの状態であったか、またそれでも外すことができない選手であったかがわかります。
この決勝も含め、今大会通してパワフルな突破役として暴れてきた東福岡LO箸本龍雅主将は、試合後にこう語りました。
「率直にうれしいです。(試合前の)ロッカールームで『最初のキックオフはヤンボーでもそれをマイボールにして1分後には7点取っているように(しよう)』と話をしました。スコアをしにいこうと。準決勝まではFWを当てて当ててという感じでやってきましたが、(決勝では)最初から(ボールを)動かして、相手ディフェンスを動かして穴を見つけて突破するというやり方で戦いました。(ボールを)外に動かしている場面でインターセプトがありましたが、攻める場所は間違っていないという話があったので、後半も同じように攻めました。(一時、同点に追いつかれても)一人一人が全然あきらめていなかったので、みんなやってくれると僕自身思っていました」
その意思統一が見事に勝利につながったわけです。そして藤田雄一郎監督もキャプテンの箸本選手を褒め称えました。
「去年も蹴り出されて終わって、今年は蹴り出して終わって。去年の2点差(での負け)、そして準決勝の1点差の勝ち(御所実戰。25−24)って、高校ラグビーは面白いですよね。箸本らFWが(試合後半も)コンタクトで負けていなかったので、それでまた流れに乗ったかなと。やっぱり先制して逃げ切るのがうちの形なので。逆転の東福岡じゃないんです。胴上げは県大会の決勝ではしてくれないので、これを楽しみに取っていました。箸本が一生懸命チームを引っ張ってくれました」
優勝監督が「高校ラグビーは面白い」と表現するのは珍しいことです。高校ラグビーがいかにドラマティックでラグビーの醍醐味に満ちていると再確認できた決勝、また準決勝だったことは間違いないでしょう。
一方、惜しくも敗れたものの終盤に反撃し一時は同点、最後も7点差に迫った東海大仰星のアタックも見事でした。東福岡の藤田監督も「テンポはうちより上」と試合後に認めたほどです。東海大仰星の湯浅大智監督は選手を称えつつ、こう敗因を語りました。
「最後まで戦ってくれたことは本当に称えたいです。ただ、最後にストレートランをしなかったこと(が敗因の一つ)だと思います。東福岡さんも厳しい局面を知っています。キックオフでの仕掛け(追いついてマイボールにするなど)や勝負どころをしっかり嗅ぎ分ける嗅覚は積み重ねてきた中で身につけたものでしょう。最後の詰めの部分は僕の責任です。もっと負荷をかけて苦しい場面を想定する、もっと競争させるなどの設定が甘かったですね」
どんな強豪校もこうした反省を繰り返し、世代交代しながらも教訓を引き継ぎ、来年再び頂点を目指すのです。湯浅監督の挙げた反省点は、必ずや来季に生きることでしょう。
例年以上に素晴らしい試合ばかりだった全国高校ラグビー。3年生は退いてそれぞれの進路へと進み、下級生と新入生が新たな挑戦を始めます。来年度の戦いも実に楽しみです。
<取材・文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)>